• ボイスドラマ「聖夜の奇跡」
    Dec 19 2025
    東京で孤独を抱える13歳の少女・聖夜(せいや)。母方の祖父の訃報をきっかけに、初めて訪れた飛騨・久々野で絞りたてのりんご、素朴でまっすぐな人々、そして同級生・林檎(りんご)と出会います。SNSからの心ない言葉に傷つき、心を閉ざしてきた聖夜。しかし、何気ない日々の中で「誰かがそばにいてくれる」その温かさに気づき始めます。冬休み最後の日、彼女が下す決断とは——【ペルソナ】・聖夜(せいや:13歳/CV:坂田月菜)=冬休みに東京から久々野にやってきた厨二病のJC・聖夜の母(みや:38歳/CV:小椋美織)=久々野出身。高校のとき喧嘩して家を飛び出し東京へ・聖夜の祖母(りん:71歳/CV:山﨑るい)=久々野で祖父と一緒にりんご農家を営んでいた・林檎(りんご:13歳/CV:坂田月菜)=久々野中学校2年生。久々野で生まれ久々野で育った【プロローグ:JR高山線高山駅】◾️SE/高山駅到着車内アナウンス/♪アルプスの牧場〜「さ、聖夜、高山で乗り換えるよ」「えー?高山で降りるんじゃないのー、ママ」「久々野って言ったでしょ?」「聞いてないよ。なに?クグノって・・・」「高山から久々野までは鈍行よ〜あなたの好きな」ママ、また話をすりかえる〜。それに私、各停専門の乗り鉄じゃないし。私の名前は聖夜。クリスマスの聖夜って書くんだよ。自分では割と気に入ってるんだけど、よく友だちからイジられるんだなあ。イジられる・・・?いや。イジメられてる、って言い方のが正しいか・・・私は、東京の中学に通う2年生。天文部に入ってて、ギリシャ神話とか星の伝説とか大好き。アパートのベランダからいつも星を眺めていろ〜んな妄想してるんだ。うん。少しだけ厨二病入ってるよ。悪い?冬休みに入ってすぐ、ママの元へおじいちゃんの訃報が届いた。と言っても、私は会ったことないんだけど。生まれてから13年間、おじいちゃんやおばあちゃんがいることさえ知らなかった。ママも実家に帰るのは20年ぶりなんだって。どうゆうこと?【シーン1:JR高山線久々野駅】◾️SE/久々野駅前の雑踏JR高山線久々野駅。駅前の広場に一台の軽トラックが停まっている。わあ、東京じゃなかなか見れないビジュ〜。と思ったら、ママが軽トラの方へすたすた歩いていって、「かあさん」と、声をかける。運転席に座ってるのは皺の寄ったおばあさん。ママを見るなり、相好を崩して口を開いた。「みやか。だいぶ顔見なんだな」「かあさん、なんで汽車の時間わかったの?」「ああん?おまえが通夜からでるゆうとったで。朝から待っとんやさ」「そんな・・お父さんのそばにいなくていいの?」「ああ。農園のみんなが賑やかにみとってくれるでな」「そう・・」「みや、まめけな?」「まめまめ」そう答えて、ママは私を指差し、「これ、娘の聖夜。かあさん、初孫でしょ」「ほおかぁ。セヤちゃん、ようきたなあ」「はじめまして、おばあちゃん。聖夜です」「ほうかほおかぁ。じいちゃんにも会わせたかったわなあ」「じゃ、聖夜、助手席に乗って」「ママは?」「私は農園まで歩いていくから。20分くらいで着くでしょ」「荷台に乗れ」「軽トラは2人乗りでしょ」「ええんやて。荷台のりんごみとってまわんと」「じゃ、私が荷台乗る」「風邪ひくわよ」「大丈夫。ダッフルコートめちゃあったかいもん。それにいっぺんここ乗ってみたかったんだ」「セヤちゃん、ええんか?無数河(むすご)の加工場にりんご届けてからうちに帰るで」「お通夜はいいの?」「ええ、ええ。みんなおるからええ」そう言って、どっかのアニメみたいなビジュになっておばあちゃんちに向かった。【シーン2:おばあちゃん家/久々野町無数河】◾️SE/冬の虫の音(ごくわずかに)〜静寂久々野に着いた日の、夜。お通夜が終わって食事をとったあと。私はおばあちゃん家(ち)の裏庭に出た。そして空を見あげて、息を飲んだ。星。満天の星。冬の大三角が、まるで天空のゲートのように輝いている。オリオンが、地上の私に向けていまにも弓を射るようだ。降り注ぐような星たちのきらめき。もう、言葉にすらできない。◾️SE/冬の鳥の声お...
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    20 mins
  • ボイスドラマ「縄文の扉」
    Dec 13 2025
    主人公・りんご(CV:坂田月菜)は、同級生のトウマと訪れた堂之上遺跡で、奇妙な“赤い光”に飲み込まれ、気がつくと縄文時代の集落へ。そこで出会ったのは、りんごと瓜二つの少女・カヤ。彼女は新しい命を抱えながら、病で苦しんでいました。言葉は通じない—それでも2人は星の下、火のそばで、食を分かち合い、心を通わせていきます。しかし病状は悪化し、りんごとトウマは“祈り”としての土偶づくりへ挑むことに・・・【ペルソナ】・りんご(14歳/CV:坂田月菜)=久々野に住む中学生。来年春には卒業・カヤ(14歳/CV:坂田月菜)=縄文女子。妊娠中。中央祭祀場で火守をしている・桃真=トウマ(14歳/CV:山﨑るい)=りんごの同級生。一番仲のいい男子【資料/【飛騨高山の縄文遺跡を巡る】飛騨高山旅ガイド】https://www.hidatakayama.or.jp/blog/detail_51.html※縄文人の言葉は擬音が多く、単語での会話をしていたと推測されています。諸説ありますが、アイヌ語が縄文語の言語的特徴を色濃く残している可能性が高い、という仮説が有力視されています。今回はアイヌ語をベースにした縄文語という仮定で縄文人の言葉を表現しています。[プロローグ:堂之上遺跡にて】◾️SE/小鳥のさえずり「りんご〜!こっちへおいでよ〜」トウマ(桃真)が竪穴式住居の前からアタシを呼ぶ。久々野町の堂之上遺跡公園。ここ、久々野中学校からちょっとだけ下ったとこだから、もうドキドキ。トウマと2人で会ってること、誰かに見られたらどうしよう・・ついつい周りをキョロキョロしちゃう。トウマはアタシの同級生。アタシと同じ、久々野中学校に通う3年生。初めて2人だけで会ったのは夏休み明けの9月。行ったのは、なんとりんご狩。ま、それには理由があるんだけど。嘘みたいだけどアタシ、今年の4月までりんごが食べられなかったの。それを克服するきっかけをくれたのがトウマ。だから、りんご狩に誘ってくれたんだ。農園の場所はアタシのうちと目と鼻の先。トウマのおうちがやってる観光農園だった。そりゃそうだよね。久々野のりんご狩なんだもん。たいてい知ってる農園だわ。トウマも生まれてから14年間で初のりんご狩体験だったらしい。農園の子なのにね。お父さんやお母さんもすごくもてなしてくれて。おみやげに久々野りんごをいっぱい持たせてくれた。農園の中では星のりんごにカットして、3玉も食べちゃったし。ふふ。それからは毎週のように、トウマがアタシを誘ってきた。トウマって女子の人気者だから、独り占めするのはちょっと心配。2人で会うのは月に1回にしようって決めたんだ。ってことで、10月は、自転車であららぎ湖までピクニック。始まったばかりの紅葉がすごく綺麗だった。11月は、ひだ舟山リゾートアルコピア。真っ赤に色づいた紅葉はもう最高。毎年見ている風景だけど、トウマがいると違って見えるから不思議だな。そ・し・て。今日が3回目。なのに、堂之上遺跡とは(笑)歴史の授業や史跡見学で何回も来てるし。そもそも縄文の炉(ろ)を発見したのは、久々野中学校の郷土クラブだったんだよ。久々野中学校の生徒から見れば、もう”自分ち”みたいなもんなんだから。なんで堂之上遺跡?そんなこと考えてたら・・・「りんご〜!早く〜?」また呼ばれちゃった。はいはい。「行くから待っててよ、トウマ」「ねえ、ちょっと見てみてよ」「なあに?」「竪穴式住居の中に赤い光が見えるんだけど」「え・・どこ?」「ほら、あそこ」「あ・・ホントだ」「なんだろう・・・それになんか声みたいなのも聞こえる」そう言って、トウマは中に入ろうとする。「ちょっとちょっとトウマ!入っちゃダメだよ!」「わかってる」「入らないでよ!私たちの大切な文化財なんだから」「煙出しのところから覗くだけだから」「そんなに身をのりだしちゃ危ないって!」「あれ?なんか平衡感覚が・・・おかしい・・・かも・・」「え・・あ、やだ・・私も・・」「りんご、手を離さないで!」目の前がぐるぐる周り始めた。公園の奥に復元された竪穴式住居の前。私たちのいる場所だけピンポイントで、空気が歪...
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    25 mins
  • ボイスドラマ「木綿のハンカチーフ」
    Dec 5 2025
    岐阜・荘川を舞台に、東京へ旅立つリョウとそば農家を継ぐさくらのすれ違い続ける恋を描いたボイスドラマ『木綿のハンカチーフ』幼なじみとして育った二人。季節を重ね、夢を語り、未来を信じていた――あの春までは。変わっていく都会の暮らし。変わらない故郷の風景。最後にさくらが願った“たったひとつの贈りもの”とは?【ペルソナ】・さくら(22歳/CV:岩波あこ)=岐阜の大学を卒業して故郷・荘川へ帰り実家のそば農家を継ぐ・リョウ(22歳/CV:岩波あこ)=岐阜の大学を卒業して故郷・荘川を離れ東京へ就職する【資料/木綿のハンカチーフ】https://www.uta-net.com/song/4548/【資料/歌詞の意味を考える 〜「木綿のハンカチーフ」編〜】https://www.mc-musicschool.com/post/lyrics-momennohandkerchief【資料/「木綿のハンカチーフ」奈良姉妹】https://youtu.be/QSV9lFgFFS0?list=RDQSV9lFgFFS0【プロローグ:3月/ふるさと・荘川での別れ(蕾すら膨らんでいない荘川桜の前で)】※FM放送のみ楽曲使用「木綿のハンカチーフ」※配信はフリー音源恋人よぼくは旅立つ 東へと向う列車で、華やいだ街で君への贈りもの 探す 探すつもりだいいえ あなた私は 欲しいものはないのよただ都会の絵の具に 染まらないで帰って■SE/小鳥のさえずり「おれ・・・東京に就職、決まったんだ」「え・・・」「さくら、ごめん」「リョウ・・・」「ひとりで決めて」「そう・・・」「デザイン会社受けて、内定もらったんだけど、東京本社勤務だって」「おめでとう」(※寂しそうに)「え・・・」「よかったじゃない・・・夢がかなって」(※寂しさを押し殺して明るく振る舞う)「さくら・・」一年前の遅い春。リョウが卒業後の進路について話したのは、落下盛んな荘川桜(しょうかわざくら)の下。私は必死で涙をこらえ、御母衣湖を見つめていた。私たちはここ荘川に生まれ、荘川で育った幼馴染。岐阜にある大学の、同じ学部に通う大学生だった。そして、お互いに、かけがえのないパートナー。夏休みには必ず一緒に荘川へ帰って、実家の農業を手伝った。うちの実家はそばを栽培する農家。夏は、裏作のトマトとキュウリを収穫する。リョウの実家は林業だったけど家には帰らず、うちの畑へ。「林業なんて絶対に継がない」と、いつも言っていた。今年は、2人で過ごす最後の夏。夏野菜を収穫したあと、いつものように荘川をドライブ。彼の運転で、涼しい湖畔の夜を楽しんだ。三谷(さんだに)の自然水(しぜんすい)を水筒に注いで2人で回しr飲み。魚帰り(うおがえり)の滝でマイナスイオンを浴びれば心まで洗われる。荘川桜公園の駐車場に車を停めて2人で見上げた満天の星。青葉をまとった荘川桜が夜空にざわめく。展望台から眺める下流の御母衣ダムは、神々しくさえ見えた。時には156号を北上して、白川郷へ。「合掌造りに住んでみたいな」冗談だか本気だかわからない目をして私を見つめる。リョウと一緒の時間は、いつだって切なく、儚い。時間よ、止まれ。大学最後の夏休みは、まるで夢のように過ぎ去っていった。■SE/吹雪の音短い秋が過ぎ、冬将軍の足音が近づいてくる。こんなに冷たい雪、心まで凍るような冬は初めてだった。いつも楽しみにしていたのに、今年は・・・”春よ、来ないで”本気でそう思った。それでも、時間は残酷だ。決して待ってはくれなかった。■SE/小鳥のさえずり「がんばってね!」(※寂しさを押し殺して明るく振る舞う)「うん・・・でも」「なあに?」「ごめん・・・オレ だけひとりで」「そんなこといま言わないで」「ごめん・・・」なごり雪がまだ山肌に残る弥生・3月。リョウが旅立つ朝。荘川の里前のバス停。リョウは路線バスで高山駅へ。名古屋から新幹線に乗り換えて東京へ旅立つ。私は、高山駅まで一緒に行って見送りたいって言ったんだけど・・・「さくらの顔を見てたら、特急ひだに乗れない」そう言って、バス停での見送りになった。大きなスーツケースを引いたリョウが、泣きそうな笑顔で私を見る。「寒くないかい?」「うん・・少しだけ・・」「東京から、思いっきりおしゃれなマフラー贈ってあげるから!...
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    22 mins
  • ボイスドラマ「サトリ」
    Nov 28 2025
    耳が聴こえない少女・凪心を読める妖怪・サトリ──音のない世界でたった一人の声が届いた。冬の高山で再会した二人。けれど、別れの時は近づいていて——静かであたたかな再生のファンタジー・・・【ペルソナ】・凪(ナギ)(14歳/CV:山﨑るい)=生まれつき耳が聞こえない少女・覚(サトル)(14歳/CV:山﨑るい)=人の心が読める妖怪サトリ・歴史教師(24歳/CV:岩波あこ)=妖怪や民話・伝承が大好きな歴史教師【資料/妖怪・覚(サトリ)】https://yokai.jp/yokai/satori【資料/妖怪・山童(岡本綺堂/飛騨の怪談)】https://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/49682_51215.html[プロローグ:記憶の中の声】■SE/虫の声〜フェードアウトしていく「・・・い。お〜・・・い。お〜〜い」それは、私が初めて聴く・・”音”だった。「お〜〜い」山の向こうから響いてくるような・・”声”。あたりをキョロキョロ見渡してもどこにも声の主は見当たらない。声を探して、私は山へ山へと入っていった。10年前。私は4歳のときに”神隠し”にあった。いや。神隠しなんて迷信を信じているわけではない。だが確かに私は、3日間父や母の前から消えてしまったのだ。3日後に発見されたのはなんと日和田高原の石仏群。馬頭観音の前にちょこんと座っていたという。その3日間のことは、なにひとつ覚えていない。ただ、すごく幸せなひとときだった・・・そんな記憶がぼんやりと残っている。初めてできたおともだちと仲良く過ごしたような・・・いつまでもずうっと楽しく語り合って。でも、それは絶対にありえない。だって私は・・・耳が聞こえないのだから。[シーン2:中学校】■SE/学校のチャイムの音〜フェードアウトしていく神隠しから10年。私は高根町から朝日町の中学校までスクールバスで通っている。私の住む町にはもう小学校も中学校もないから。先生が黒板の文字を消しながら話している。後ろを向いて話してると何言ってるかわかんない。最近、無理に唇を読むのをやめた。疲れるし。筆談もみんなの手をとめちゃうからやんない。手話?・・実は私、手話も上手じゃないんだ。どうしてかっていうとね・・・■※ここから回想高山には”ろう学校”ってないの。うちはお父さんもお母さんもおじいちゃんもおばあちゃんも健常者なんだ。普通は幼い頃からろう学校で手話を習うか、家族が手話を習ってコミュニケーションをとるんだって。うちの場合は・・・お父さんが家具職人。清見の工房で夜遅くまで働いてる。お母さんは市街地の総合病院で働く看護師。おじいちゃんとおばあちゃんはゴルフ場で住み込みの管理人。結局、私はいつもひとりぼっち。朝から夕方遅くまで過ごすのは町内の託児所。小さいうちに人工内耳を入れることもなく、手話も習わなかった。家族も手話ができるわけじゃなく、近くにボランティアもいない。こういうのなんて言うかわかる?言語剥奪っていうんだよ。幼ない頃から手話のような”言語”に触れる機会がないと、コトバってものが理解できなくなっちゃうんだ。で、私に残された方法は”読話(どくわ)”。唇や口の動きを見てなにを言っているのかききとること。いや、いきなり、それはハードル高過ぎでしょ。そんなときに神隠し・・でも神隠しのあと、私は少しだけ唇を読めるようになってたんだ。両親も祖父母もびっくり。おばあちゃんなんて、「やっぱり神様が連れてってくださったんだ」って。小学校のときはみんなマスクしてたから最悪。誰がなに言ってんのか、まったくわかんなかった。その頃たまに、手話ボランティアの人がきて少しずつ手話を教えてくれるようになったけど。中学へ入学したあとも、学校で私、手話はほとんど使わない。だって、誰も手話なんてわかんないんだよ。私一人のためにみんながわざわざ手話覚えるとかって、ないし。気を遣って話しかけてくれたりする友だちもいたけれど。先生のお話も、早口で読み取りにくい。やがて中学2年になった・・ある晴れた冬の日・・・[シーン3:転校生】■SE/学校のチャイムの音〜フェードアウトしていく「はじめまして。御嵩(みたけ)から引っ越...
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    25 mins
  • ボイスドラマ「男装の麗人」
    Nov 21 2025
    飛騨の金森家に生まれた若君・宮丸。その正体は、家を継ぐため男子として育てられた娘だった――。剣の腕で運命を切り開く中、雪の峠で救った姫との出会いが、やがてすべてを変えてゆく。史実をベースに描く、江戸時代元禄のボイスドラマ。【ペルソナ】・金森宮丸(15歳/CV:小椋美織)=金森頼興の娘。お家断絶を恐れた父が息子として育てる・松平千代芳(16歳/CV:坂田月菜)=越前国藩主・松平吉邦の娘。金森家との縁談に迷っている・金森頼興(28歳/43歳/CV:日比野正裕)=宮丸の父。お家復興の立役者だが世継ぎに悩む【資料/金森氏の系図】https://genealogy-research.hatenablog.com/entry/kanamori【Webまんが/金森長近】https://www.bgf.or.jp/bgmanga/320/[シーン1:出生】■SE/赤ちゃんの泣き声「お、おお!でかした!お、おのこじゃ!元気なおのこじゃ!」私が生まれたとき、父上の第一声はこうだった。だが!ご覧の通り、私はおなごである。まったく。時は元禄。名君とうたわれた金森長近から数えて6代目。頼錦(よりかね)の世にひどい失政でなんと改易。藩主の地位を失ってしまった。なんとかお家復興をと奔走しているのが私の父、金森頼興(よりおき)。その努力はまあ涙ぐましいものだった。先代が無くした飛騨の庶民たちとの絆。信頼関係を取り戻すために、毎朝みなと一緒に雪かきまでして。そんな中で母上が懐妊。お家断絶を覚悟していた金森家の者にとって、これ以上ない吉報だった。まあ父上が、男児誕生と宣言したのも、気持ちはわかる。しかし・・・[シーン2:幼少期から元服へ】■SE/剣術の音私は武家の若君らしく、すくすくと成長していく。男子としての教育を受け、剣術や礼法、弓術に明け暮れる毎日。お家復興のために、日々厳しい修行に励む。その姿は誰もが憧れる凛々しい若武者。私自身もいつしか、オンナであることを忘れていった。宮丸15歳、元服の日。家中が正装し、屋敷の中庭にて烏帽子(えぼし)直しの儀を行った。白歯(しらは=歯黒)を断ち、眉を剃り、髷(まげ)を月代(さかやき)に結う。父・頼興が烏帽子を被せてくれたとき、不覚にも私の目には涙が潤んだ。父の目には、歓喜の涙と映ったことだろう。だが、心の中はまったく違う。男子として祝ってもらうことはすなわち、女性としての幸せを捨てることを意味しているのだ。元服名として、私には宮丸(みやまる)という名が与えられた。その年の暮れ。突如持ち上がってきたのは、越前国(えちぜんのくに)の有力な大名家との縁組話。越前には領地である白崎(しらさき)もある。私は先方への顔見せのため、雪の中を旅立った。[シーン3:越前国境にて】■SE/吹雪の音そろそろ越前国という頃合い。木ノ芽峠(このめとうげ)にさしかかったとき、吹雪の音にまじって微かに女性の悲鳴が聴こえてきた。『だれか!お助けを!』それは猛吹雪のなか、山賊の集団に襲われている女性とその一行。護衛の侍はすでに倒され、地面に伏して事切れている。侍女が女性の前に立ちはだかるも、山賊の頭は余裕の笑顔で近づいていく。獣臭が抜けきらない毛皮を身にまとい、下卑た笑みをたたえながら。その後ろでは、手下たちが同じように笑いながら立っていた。山賊の頭が侍女に手をかけた瞬間。後方に不穏な動きを感じて振り返ると、頭の目に映ったのは・・一瞬で地面に倒れた手下たち。赤く染まる地面。私は山賊たち全員を1人で斬り倒した。そのまま刀を持つ手を踏みつけて、頭を睨みつける。『なんだぁ、きさまは!?』名乗る前に、襲いかかる頭を一刀両断で斬り伏せる。■SE/刀で斬りつける音「飛騨の宮丸・・と、申す」地面に倒れた頭の亡骸に向かって言葉をかけた。それを見ていた女性は、侍女をおしのけて私に近寄ってくる。「ありがとうございます」「お怪我はありませんか?」「大丈夫です。でも護衛のものが・・」「残念なことをしました。間に合わなくて申し訳ありません。さぞ無念なことであったであろう。彼はひとまずこの場で埋葬して、あなたは家に戻りなさい」「はい」「急ぎますので、私どもはこれで」「あの」「はい」「お礼...
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    13 mins
  • ボイスドラマ「A.I.(ア・イ)の絆/前編:母子編」
    Nov 14 2025
    AI神経生理研究の第一人者・一之宮ミヤ博士が作り出した、息子の記憶を受け継ぐAIヒューマノイド“蓮架”。プロメテウスの襲撃によって一度は破壊された彼が、奇跡的に“魂のパルス”によって再生する――。母を想う気持ち、母が子を想う祈り。そして、AIヘイト組織の青年・アドルフとの邂逅が、物語を大きく動かす。AIに“愛”はあるのか。それとも“愛”こそがAIを人にするのか。飛騨の山々を舞台に描かれる、母とAIの再生の物語。涙と静かな希望を、あなたに。【ペルソナ】・一之宮博士(34歳/CV:小椋美織)=日本のAI神経生理研究の第一人者。交通事故で亡くした息子・恋に似せてAIロボットを作る・レンカ=蓮架(7歳/CV:坂田月菜)=亡くなった恋(レン)の代わりに母が作ったAIロボット。息子・恋のすべての記憶を受け継ぐはずが母に好かれようと”いい子”になってしまう・電気羊(55歳/CV:日比野正裕)=AIヘイト集団「プロメテウス」のリーダー。AI倫理法施行の歳は一之宮博士のラボや自宅に脅迫状を送っていたがだんだんエスカレートしてスナイパーを放つ・救急隊員(CV:日比野正裕)・馬水博士(33歳/CV:岩波あこ)=一之宮博士の親友。かつての共同開発者。現在、ヒューマノイドフレームを製造する工場「ミラーテック・ロボティクス」を運営する・ニュースアナウンサー(宮ノ下浩一/カメオ)=HitsFMのベテランアナウンサー・時代設定=2030年前後(ごくごく近い未来/来年かも・・・)・世界観=増え続けるA.I.ロボット(ヒューマノイド)に対して人権が認められていく※前編が一之宮博士のモノローグ、後編はレンカのモノローグ<プロローグ/久々野町/女男滝周辺>◾️SE/クマの咆哮「ク、ク、クマだ!」◾️SE/さらに怒り狂うクマの叫び「た、た、たすけてくれ!」◾️SE/草やぶをかきわける音「あ〜あ。だめだよ」「え?え?」「こわがってるんだ、この子」「この子・・・?」「さあ、もう心配しなくていいから」「こっちへおいで」「ほら、いい子だから」「ようし、よし。もう人間に近づいちゃだめだぞ。さあ、行って。森へおかえり」◾️SE/草やぶをかきわけ森の奥へ帰っていくクマ「よかった。あ、お怪我はありませんか?」「き、き、きみは?」「ぼくは・・」「レンカ」「あ、博士(はかせ)」「だめじゃない、あまり遠くへ行ったら」「ごめんなさい。だって、この人がクマに・・」「あ、そ、そうなんです。絵を描いてたらいきなりクマが現れて」「絵描きさん?」「あ、いえ。実はぼく、この近くの児童養護施設で働いているんです」「くぐの りんごはうす?」「そう。こう見えてぼくは社会福祉士なんだよ」「へえ〜」「そうですか。私たちはじゃあこれで」「あ、はい・・・」「もうクマをこわがらせちゃだめだよ〜」「わかったよ。ありがとう」ぼくが初めてその人に会ったのは、11月も終わりに近い金曜日。久々野にある女男滝の近く。馬水博士とやってきたお昼のことだった。実はその日、馬水博士の研究所兼ファクトリーで大変なことがあったんだ。<アナウンサーによるAI人権法が承認されたことを伝えるニュース>「臨時ニュースをお伝えします。今朝未明、高山市一之宮町にある馬水博士の研究所兼ヒューマノイドフレーム工場で大規模な爆発事故が発生しました。現場は一之宮町の山間に位置する第七研究地区で、AI関連施設が集まるエリアのひとつです。消防によりますと、爆発は午前3時過ぎ、施設地下の冷却炉付近から発生し、建物は全焼。少なくとも職員3名が軽傷、うち1名が重体とのことです。馬水博士本人は出張中で連絡がつかず、安否は確認できておりません。関係者によりますと、博士の研究所ではAI倫理法で制限されている“人格データの複製実験”を行っていたとの情報もあり、警察およびAI管理庁が詳しい経緯を調べています。現在、過激なAI排斥組織“プロメテウス”による犯行声明がネット上に投稿されており、当局は関連を含め慎重に捜査を進めているとのことです」「まさか、馬水博士が狙われるなんて」「いや、不思議でもなんでもないわ。ミヤが作っているのはAI...
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    19 mins
  • ボイスドラマ「A.I.(ア・イ)の絆/前編:誕生編」
    Nov 7 2025
    AI人権法が成立した近未来――。AI神経生理研究の第一人者・一之宮博士は、亡き息子をAIとして蘇らせる。しかし目覚めた彼は“恋”ではなく、“レンカ”と名乗った。AIと人間の境界はどこにあるのか?科学と倫理、母性と愛が交錯する、飛騨高山を舞台にした近未来SFドラマ!【ペルソナ】・一之宮博士(34歳/CV:小椋美織)=日本のAI神経生理研究の第一人者。交通事故で亡くした息子・恋に似せてAIロボットを作る・レンカ=蓮架(7歳/CV:坂田月菜)=亡くなった恋(レン)の代わりに母が作ったAIロボット。息子・恋のすべての記憶を受け継ぐはずが母に好かれようと”いい子”になってしまう・電気羊(55歳/CV:日比野正裕)=AIヘイト集団「プロメテウス」のリーダー。AI倫理法施行の歳は一之宮博士のラボや自宅に脅迫状を送っていたがだんだんエスカレートしてスナイパーを放つ・救急隊員(CV:日比野正裕)・馬水博士(33歳/CV:岩波あこ)=一之宮博士の親友。かつての共同開発者。現在、ヒューマノイドフレームを製造する工場「ミラーテック・ロボティクス」を運営する・ニュースアナウンサー(宮ノ下浩一/カメオ)=HitsFMのベテランアナウンサー・時代設定=2030年前後(ごくごく近い未来/来年かも・・・)・世界観=増え続けるA.I.ロボット(ヒューマノイド)に対して人権が認められていく※前編が一之宮博士のモノローグ、後編はレンカのモノローグ<プロローグ/救急車の中>◾️SE/車内で聞こえるサイレンの声「恋!しっかりして!」「大丈夫だよ!」「絶対助けるから!」◾️SE/救急隊員の声「7歳男児!交通事故による外傷!」「さがって!」〜AEDの音×2回〜「戻らない!」「心肺停止!」11月のある晴れた日。私の息子・恋は、この世を去った。わずか7年の生涯・・・そんな・・そんな・・・いやだ!私の名は、ミヤ。一之宮にある”飛騨AIラボ”の所長。周りからは”一之宮博士(いちのみやはかせ)”と呼ばれている。AI神経生理研究の第一人者。ロボット工学の世界でも右に出るものはいない、と他人(ひと)は言う。だが、そんな名声や名誉より、もっと大切なものが私にはある。たったひとりの息子・恋(れん)。30歳(みそじ)を過ぎて生まれた息子・恋(れん)は私の宝物。それがいま、私の目の前から消えようとしている。そんなの・・そんなの・・・絶対にダメ!「すみません!」「行き先、変更してください」「え?」「あそこ!私のラボへ!」「いや、それは・・・」わかってる。救急隊員は、医師の指示なしで死亡判定を行うことはできない。法的には、私の指示に従えないだろう。だけどここ高山は、AI工学研究の特区。特区法では、「AI倫理上の脳情報/解析」目的に限り死亡判定未確定の被験者を研究施設に搬送できる、という“例外規定”が存在する。(※アンダーライン部分はテンポよく一気に)急がないと!心肺停止してから5分で脳死。10分で完全に脳の機能が消失する。「お願い!急いで!」<シーン1/飛騨AIラボ『処置室(ソラリス)』>◾️SE/AIラボの無機質な雑音私は息子を『飛騨AIラボ』の「生体神経冷却槽(Cryo-Neural Chamber)」に移送した。(※アンダーライン部分は読まなくてよい)マイナス3度の低温液体窒素ガス環境で、脳の代謝を一時的に停止。シナプスの劣化を防ぐ。よし、これで時間がかせげる。脳の記憶領域・海馬(かいば)からニューロンを三次元マッピング。私が開発しているAIプラットフォーム・ECPで人格データを抽出する。Emotional Code Protocol(エモーショナル・コード・プロトコル)。ECPこそが個性の設計図となる。(※ECP=造語。「囚われた感情」を解放するヒーリング手法に由来する)すべてのデータをメモリーチップへ記録し終わったのは、日付が変わる1分前。息子の体は荼毘に付さず、冷凍保存した。あと5年。2035年には、量子再生医療技術が臨床段階に入る。いつか肉体を再生し、AI人格と統合できるかもしれない・・・そんな一縷(いちる)の望みを託して。法的にも「死亡が確定していない」状態であれば、人格移植実験は「延命研究」として扱われる。それは私が提唱...
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    23 mins
  • ボイスドラマ「トライアングル・ラプソディ/完全版」
    Oct 31 2025
    荘川さくらと朝日よもぎ。ふたりの少女の“心”が入れ替わった日。八幡祭の喧騒の中で、恋と友情と運命が交錯する。それぞれの想いを胸に、他人の身体で過ごしたわずかな時間が、やがて本当の自分を見つめ直すきっかけとなっていく。――「あなたの中のわたし」と「わたしの中のあなた」。入れ替わった心が奏でる三重奏《トライアングル・ラプソディ》。荘川さくらと朝日よもぎ、それぞれの視点で描かれた前後編をひとつにまとめた完全版、ついに配信スタート!【ペルソナ】・さくら(24歳)=荘川そばの栽培農家。収穫が終わった休みの日に八幡祭へ(CV=岩波あこ)・よもぎ(29歳)=朝日町の漢方薬剤師。東京の友達と約束して八幡祭へ(CV=蓬坂えりか)・ショウ(35歳)=さくらのパートナー。八幡祭で待ち合わせした(CV=日比野正裕)・観光客(22歳)=二日酔いで薬膳カフェ「よもぎ」へきた旅行客(CV=小椋美織)<シーン1A:古い町並>◾️高山祭の雑踏(お囃子)「すごい人出・・高山祭なんだから、あたりまえだけど」古い町並を上(かみ)から下(しも)へ。屋台の曳き揃えを目指して、人の波は桜山八幡宮へ流れる。私はさくら。実家は荘川町でそばの栽培農家をやっている。9月後半からは収穫の最盛期。でも昨日までにすべて終え、今朝、路線バスに乗った。趣味の一眼レフをかかえて。秋の高山祭。八幡祭(はちまんまつり)。パートナーのショウと桜山八幡宮で待ち合わせしている。彼は市街地で働いてるから、今日もお昼まで仕事だって。ついさっき少し遅れるって連絡があった。だから私はひとりでゆっくりと、古い町並を歩く。中橋(なかばし)から上三之町(かみさんのまち)へ。古い町並を順番に撮影していく。なじみの酒蔵があるあたりで、人力車とすれ違った。いい被写体。杉玉が吊るされた軒先越しに町並を写す。そのまま人の流れにのって安川通り(やすがわどおり)方面へ。人波にもまれながらファインダーを覗いていたとき・・・「あっ!」古い町並の左端を歩いていた私は、足を踏み外して側溝で転んでしまった。一眼レフを庇うあまり、焼板の壁で強く頭をうち・・・朦朧とする意識・・・ああ、祭囃子の音がフェードアウトしていく・・・<シーン1B:朝日町の薬膳カフェ「よもぎ」>◾️カフェの雑踏「なんかこのお茶、苦いんですけど」「ああ、ごめんなさい。さっき、昨夜飲みすぎちゃった、って言ってたから五行茶をお出ししたんですよ」「ゴ・・ギョウチャ?」「はい。五種類の薬草をブレンドしたお茶です」「で?」「焙煎した生薬は苦味があるんです。でも、甘草とかナツメの甘みが、苦さを和らげてると思うけどなあ」「だから?」「苦いだけじゃなくて、飲んだあとほんのり甘さが残りませんか」「そんなんどうでもいいから、なんとかしてよ。砂糖でもなんでもいれればいいじゃない」「そんな・・・砂糖なんて入れたら、血糖値も変化しちゃうし。体も冷やしちゃいますよ」「関係ない。苦くないようにして」お客さんの声がだんだん荒くなる。あ、だめ。久々に・・・これ・・過呼吸かも・・「ちょっと、聞いてる?」意識が遠のく・・・お客さんの声が遠ざかっていく・・・<シーン2B:古い町並/さくらの体=よもぎの意識>◾️高山祭の雑踏(お囃子)「あ・・・れ・・?えっと・・えっ!?ここどこ?」気がつくと、薬膳カフェ「よもぎ」とはまったく違う場所に、私は倒れていた。ここは・・・?あたりを見回す。高山市街地の・・・古い町並だ。しかも私、側溝に左足を突っ込んで倒れている。体が重い、って思ったら、首にブラ下がっているのは、大きなカメラ。そうだ。持ち物。肩かけの小さなポーチを手で探る。ポーチの中に見つけたのは、かわいい手鏡。そこに映っていたのは・・・誰?この人誰!?桜色のロングヘアー。桜の髪飾り。そして・・・凛とした美しい顔立ち。誰なの〜!?なんで?なんで?どういうこと、これ?鏡の中で整った顔が困惑した表情を見せる。鏡を遠ざけて体全体を映すと・・・淡い桜色のロングTシャツ。透け感のある軽やかなパーカー。...
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    35 mins